はじめに — 求めよ、さらば実装されん
はじめに —— 求めよ、さらば実装されん
「求めよ、さらば与えられん。探せよ、さらば見出さん。叩けよ、さらば開かれん。」
聖書(マタイによる福音書)のこの一節は、AI時代を迎えた今、まるでこの時代の到来を予見していたかのような「現実」として私たちの前に立ち現れています。
哲学は、問いを時代を超えて継承する装置でした。存在とは何か。意識はどこにあるのか。人間とは何者か——問いはいつの時代も立てられてきましたが、十分に検証する手段がありませんでした。哲学が上流工程として問いを定義し続けた一方で、その問いを実装し、テストする環境が整っていなかったのです。
コンバージェンスの時代が特異なのはここにあります。問いの性質は変わらないまま、検証の解像度が初めて哲学の問いの深さに追いつきました。長年にわたって設計書だけが積み上がってきた人類の問いが、いよいよ実装フェーズに入ったのです。
「どう実現するか(How)」という悩みから解放されたとき、私たちは「何を成すのか(What/Why)」という本来の目的に、その全エネルギーを注げるようになります。手段はあっという間に陳腐化します。AIが何でもできる時代に残る差分は、問いの質と、その問いに賭ける意志です。
80億分の1の意志として
この「手段が容易になっていく世界」で最も価値を持つのは、**「正しく求めるスキル」**にほかなりません。何を願い、どのような問いを立てるのか。その問いの精度こそが、新しい時代の創造性を決定づけます。
私は、シンギュラリティ(技術的特異点)を、単に「あらかじめ定められた避けられない運命」のような決定論的なものとは考えていません。
世界を生きる80億人のすべての人に、シンギュラリティの姿を決めていく権利があるはずです。私はその80億分の1という個人として、一部の誰かではなく、全員にとって望ましいシンギュラリティの姿を追い求めたいと願っています。
聖域なし——全部やる、という戦略
日本はアニメ・漫画というソフトパワーによって、何十年も前からシンギュラリティを「物語として」予行演習してきた社会です。サイボーグ、AGI、意識の転送、ポスト人間——それらはフィクションの中で繰り返し検証され、多くの人の直感に刻まれてきました。
シンギュラリティを語るとき、手段たる技術だけでは目的を見誤りはしないでしょうか。技術はあらゆる人間活動の進化に玉突き式に影響を与えます。そこで著者が提唱するのが、 コンバージング・ビット フレームワーク(CBF) です。技術・環境・地政学・経済・社会・思想の6つのビット(観測軸)が、それぞれ独自の加速を続けながらシンギュラリティに向かって収束していく——その構造を観測・記述・検証するための枠組みです。
AI時代の最適戦略のひとつは、全部やる、ということです。
問いを立てる範囲に聖域を設けない。役に立つと思ったことはすべて検証する。著者はその選択を意図的に行っています。
ユースケースに宿る「あるべき姿」
では、全員にとって望ましいシンギュラリティとは、一体どのような姿でしょうか。
それを単なる空想に終わらせず、具体的かつ実効性のある形で描き出すために、私は**「ユースケース駆動」**という、AI時代にこそ再評価されるべきアプローチを選びました。「確かに役に立つ、具体的な問い」の積み重ねから未来を設計し、できる限りの検証を繰り返していく。
本書のタイトルである**『ユースケース駆動のシンギュラリティデザイン』**は、この信念を一文で表したものです。シンギュラリティという巨大な概念をユースケースという単位の積み重ねでデザインしていく——。大それた試みですが、Manabazuという個人の活動として挑戦してみたいと思っています。
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なぜ、「シンギュラリティ」というテーマを扱うのか。
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なぜ、30ページの「マイクロブック」という形式なのか。
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なぜ、あえて「ローカルLLM」で検証するのか。
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なぜ、全体を「5つのシリーズ」に分けるのか。
それらすべての問いに対する答えが、このCBFという思想であり、本書そのものに込められています。
5つの出版シリーズ
6つのビットの収束を「書籍」という形で記録する5つのシリーズ。それぞれのテーマを掘り下げながら、全体として「シンギュラリティを見据えたより良い生き方」でつながっています。
- 🌀 シンギュラリティ志向ライフ — シリーズ全体の中心。シンギュラリティとは何か、どんなシンギュラリティを願うか、個人としてどう迎えるかを直接考えていきます。映画・アニメ・漫画・スピリチュアルを含むソフトパワー全域を聖域なく取り上げ、東洋的視点も交えてシンギュラリティの解像度を上げていきます。
- 🌱 サステナブル・コネクト — シンギュラリティを生きて迎えるための持続可能性の柱。どれほど技術が加速しても、生きていなければ意味がありません。再生可能エネルギー・V2H・EV・食と農・耐災害——個人の生存戦略を実証記録として積み上げます。
- 💡 ゴールファースト・テック — 目的達成(ゴールファースト)のためのIT・AI活用手法。手段は誰でも使えるようになっていきます。手段に溺れず、何を成すのかに集中するエンジニアリング手法を実証します。
- 🔗 コンバージング・ビット — 個々の最先端分野が急激に進化するだけでなく、それらが融合(コンバージェンス)することで、2030年以降さらに変化が加速します。その交差点で何が起きるかを観測・記述する横断シリーズです。
- 🚪 でじたるドアー — 豊かに生きる手段としてのデジタル技術への入り口。ひとりでも多くの人が「使える」状態へ、どこでもドアのようにデジタルの敷居を下げていきます。
この本の使い方
本書は3つの顔を持つ。
- 設計思想書 — CBFという知的生産システムの定義と原理を記述する
- 出版記録 — 既刊4冊がどのように生まれたかを振り返る実録
- 招待状 — 読者自身がCBFを応用して「問いを本にする」ための入口